水槽に帰らせて

水槽脳仮説信者

神様が棲まう町

高速因果応報を頂いた記録をします。生きてるだけで罪な23歳、無職なきなすです。

 

もう風が強かった。行きから容赦なく風が吹き付けて、息を切らしながら自転車を漕いでいた。遠くの銀行に用があったのだ。建物沿いにある屋根つきの駐輪場を遠目に見ながら、入口近くに停め置いた。

そこでさくっと用事を済ませて外に出ると、数十分で自転車は横転していた。それも私より先に停められていた自転車は無傷だ。どうやら周りの自転車は上手く風を避けたために倒れていなかったようだ。

折り畳み自転車にとって、横転は結構痛い。ママチャリみたくフレームがしっかりしていないし、クロスバイクより構造が複雑だ。小さくて複雑なものは衝撃に弱い。それに買ったばかりのライトが2、3回目で破損したこともある。

ため息と共にブレーキをチェックして、元来た道を行っても向かい風。でもせっかくの外出だからと寄り道はする。

少し走ると、ショッピングモールと言うにはこじんまりとした、田舎特有のだだっ広い敷地に平屋建ての店々が並ぶ。ホームセンターにスーパー、100円ショップ、あとは個人の店と食べ物屋が併設されているような場所だ。

もちろん駐輪場に行くが、その周りの自転車は規則性なく倒れていた。風の向きは気紛れなので、これはもう運だと片足スタンドを降ろす。

買い物後、自動ドアを抜けて5歩進んだあたりで声を掛けられた。

「あのーすみません、このあたりに○○のお店があると聞いたんですが、この奥にあるんでしょうか…」

道案内の要請だった。トレーナーにジーパンなんてラフな格好をした女が昼間の店から出てきたら、それは地元民の可能性が高い。私ではなかったら順当な人選だと思う。

多分、きっとあなたの目的地は、あなたの視界の斜め左に映る建物のことではないだろうか。しかし、その人から聞いた店は私は一度も入ったことがなく、ちらりと看板を見ただけで本当に確信がなかった。

それで、向かい合う私はこう答えた。

「そうですね。この奥のほうにあると思います」

伝家の宝刀『代名詞』『と思います』

身振りをつけて、斜め右…つまりおばあさんから見て、斜め左方面に「ご覧ください」と手をやる。

「ありがとう」

そして、おばあさんは真っ直ぐ歩いていった。

ええ…。その方面は駐車場しかないよ…。見えてる先を指して、この奥って言っちゃったから?どうしよう。でも店も知らない人が一緒に着いていくべきだった?

そう葛藤しながら、駐車場に戻る。

倒れた自転車を起こし、ペダルを踏む。あれ、なんだか変な感触。空回り。

チェーンが外れていた。十中八九、横転の衝撃だ。

この間、30秒。あまりにも迅速な天罰だった。

初めてのチェーン外れに動揺しつつ、軍手を買いに100円ショップへと舞い戻る。

ところで、同じ敷地内にある店は品が競合しないように忖度しているときがある。私の元バイト先ではパン屋が奥にあったから、パンの納入はしていなかった。

その100円ショップでは、ホームセンターに忖度してか軍手はガーデニング用しか置いていなかった。

普通の100円ショップなら置いてあるラインナップさえも、緻密な対応で天罰を下しに来ている。

この時点で、私は「ごめんなさい、もう人に雑に対応しませんから」と天に許しを乞う側になっていた。

この町の神様はとてもよく人のことを見ている。去年に引き続き、今年も大吉を渡してくれた優しさは、きちんとしなさいという厳しさと一体だった。

諸々のことがあり、ここの神様は私に甘いのかな?と思っていたが、割と容赦なかった。

 

私はそんな町に住んでいる。

この町で、神様に縋って祈って怒って泣いて笑って生きている。

 

このあと、また別の店で目当ての軍手を買い、どうにかチェーンは復活してくれた。

しかし軍手が黒色だったせいでチェーン油がついていることに気付かず、鞄から取り出して叫び声を上げることになったのも、これも天罰の一つだったのだろう。

 

神様が、神社が好きというよりは「鳥居」が好きなので、実は何の神様が祀られているか調べようともしないまま、鳥居に対して賽銭で推し続けている。なきなすでした!