水槽に帰らせて

水槽脳仮説信者

こどおば部屋を燃やしたい

汚部屋火事(イメージ)

22歳引きこもりニートは毎日同じ景色を見ている。実家暮らしなので、親からのお小言というには鋭すぎる正論のシャワー付きだ。

下宿先から引っ越して、もう一ヶ月経つ。当初の予定だと終の住処に移動していたはずなのだが、どうにも身辺整理が終わらない。小学校から計画性がないので、この段取りもある意味想定内ではある。

新卒の皆様方は半月が過ぎ、そろそろ仕事にも慣れてきただろうか。桜はとうに散り、環境変化を受け入れつつある社会を横目に、私は捨てられない荷物に埋もれている。

 

これじゃいつまで経っても引っ越しできない!

 

なぜ片付かないかといえば、「売れば金になりそ~」とか「まだ使えるしもったいないな」といった皮算用のせいである。そう、未練だ。

未練を消すにはすべてやりきったと、もう後戻りはできないまでに燃焼し切ればいい。

じゃあ部屋を燃やそう。燃やして灰になれば、何も持っていかなくて済む。

もちろん実際やったら大問題では済まない。煙が上がった瞬間に火災報知器は鳴り、マンション中がてんやわんやになること間違いなしだ。警察行きになって、引っ越しはおじゃんだ。

だから妄想だ。中学生でもギリギリ許されないイタい妄想を、22歳無職がやる。

 

私の部屋にはそこそこ本がある。床に積んであるタワーはよく崩れるので、そこを火種にしよう。

コンビニで買ったライターで一番上の文庫本に火を着ける。そのままだとすぐ消えてしまうのでうちわで酸素を送り込んだ。そのうちタワー全体に燃え広がって、煙が上がってくる。煙で目がちかちかするが焚き火みたいなオレンジが綺麗。

火災報知器のサイレンがうるさい。建物全体に鳴っているかと思ったが、システムの点検を怠っていたこともあり、どうも上手く作動していないようだ。なので続ける。

観察していると、床のカーペットを伝って火があちこち舐めていく。服も写真も家具も一緒くたに燃える姿を見ていると気分がいい。しかし色々と混ざった煙で喉が痛み、勢いを増した炎の熱気でいられなくなってきた。部屋を出ようとして跨いだときに本を踏んで火傷する。

火傷の手当をしているうちに、部屋からは崩れる音が聞こえてきた。遠目で様子を窺うと、サイレンを打ち消すように壁が物が焦げていく。距離を取っているはずだが煙が身体を包み、距離感がわからなくなる。それでも揺らめく火柱が全部一つに分解しているのを眺める。ここまで燃えてしまえば、窓もきっと割れているだろう。通報も近いはずだ。

やってしまった。今更後悔しながら、しかし過去が灰になっていくのは目を離せないくらいに心がすっとする。もしくは穴が空いた。

失ったものは取り戻せないので、考えるだけ無駄だ。前を向いて生きていこう、だなんてありきたりなフレーズもそれを証明している。

だから後ろの橋を焼いてしまえば*1、前に進むしかない。

 

その後、消防により他の部屋に燃え広がる前に無事消火される。なんて都合の良いところで、脳内の火が消えた。リアリティもなければ面白みもない。私は小説家にはなれないだろう。

 

実際は自分を変えることもできず、毎日レジ袋1つ分ぐらいの折り合いをつけている。これが私の限界だ。それでも足の踏み場は増えたと言い張る。

それにいつかは、いつかは身辺整理も終わる。骨になるのが先か片付くのが先かというだけで。

 

非倫理的妄想だけは一人前の社会不適合者、なきなすでした。

 

今週のお題「変わった」

*1:burn one's bridges : 日本の慣用句だと「背水の陣」。自分の渡ってきた橋を焼くってかっこいいね